解説)経会陰式前立腺生検について

我が国を含め世界中で実施されている前立腺生検のほとんどは経直腸生検と呼ばれる方法です。

この方法は前立腺がん検診が米国でおこなわれるようになった30年以上前に始まったもので簡便であることから世界中で汎用されています。しかしながら経直腸生検には2つの欠点があります。

  1. 直腸粘膜を通じて生検を行うため大腸菌が前立腺内に侵入し感染症を惹起する可能性があります。また近年は抗生物質に耐性を持つ大腸菌が増えているため、時として経直腸生検のあと敗血症という命に係わる合併症をおこすことがあります。
  2. 二つ目の問題として経直腸生検では前立腺の直腸寄りからしか前立腺組織が採取できないため前立腺全体の癌の分布や広がりを正確に知るには不十分であることが挙げられます。最善の前立腺癌治療を行うには、正確な診断が必要不可欠になりますが、経直腸前立腺生検は正確な診断という観点からは十分ではないと考えています。以上の理由から、当大阪前立腺クリニックでは、院長の岡本が前職宇治病院時代に開発し、既に300例以上の実績がある多部位経会陰生検を1泊2日で実施することとしています。この方法は安全で痛みがなく診断が正確で前立腺全体の癌の分布を知ることができる有効な生検方法です。この生検方法は手技が煩雑なため、一般の泌尿器科では採用されていない方法です。また腰椎麻酔でおこなうため痛みもなくまた感染リスクも極めて少ない安全な検査方法です。                             ★ 至適で再発のない前立腺がん治療を行うためには、正確な病理診断(つまり前立腺のどの部位にどのようなグリソンスコアの癌が、どれだけの領域に存在し、またどの部位には前立腺癌細胞がないかを治療前の情報として得ておくこと)が極めて肝要になります。小生の目指す再発のない前立腺癌治療を行うためにはMRIと多部位からの経会陰生検を組み合わせた安全で正確な前立腺がんの診断をおこなうことがとても重要です。生検本数や採取部位が十分でないため、他院の診断では、グリソンスコアが6や7であったものが実は9の部分が存在することが当方の会陰生検で判明することも稀ではないため前立腺癌の病理診断については、常に慎重な判断が要求されます。