解説)放射線治療と生物学的等価線量(BED)について

この項では、現在おこなわれている外部照射による放射線治療と岡本メソッドによる小線源療法(±外部照射)の根本的な違いを線量という観点からもう少し詳細に記載します。専門的内容を含みますので 難しいと感じた方は読み飛ばしていただいて結構です。

前立腺癌を再発させないための重要な因子は線量である

放射線治療において前立腺癌を再発させないための重要な因子は線量です(Gy: グレイという単位を用います)。外部照射と小線源ではそれぞれの1Gy=1Gyではないので 生物学的等価線量(BED)という指標をもちいて各々の治療を評価することが一般的になっています。私は、マウントサイナイメディカルセンターの出したデータをもとに中間リスクではBED=200Gy、 高リスクではBED=220Gyを局所再発させないための標準線量としています。ただしこのBEDの計算にはα/β比という定数をいくつに設定するかにより値が大きく変わってしまいます。われわれはマウントサイナイのデータがα/β=2で出された臨床アウトカムであるため、α/β=2でBEDを算出しています。施設や論文によってはα/β=1.5をもちいてBEDを算出して公表しているところもあります。この場合、α/β=1.5によるBEDはα/β=2によるBEDより高い値となりますので、α/β比を度外視して単にBEDの値だけとりあげることには注意が必要です。

最近急速に普及している高額でハイテクと称される外部照射装置にはIMRT/VMAT, IMRTの亜型であるトモセラピー、粒子線治療(陽子線治療や主に炭素イオンを用いる重粒子線治療)があり、照射の方法については動体追尾システムや一回あたりの線量を増やして照射回数を減らす寡分割照射といったさまざまな種類のものがあります。 しかしながらいずれの方法をもちいてもα/β=2によるBEDは150~160Gyにとどまります。近年実施施設が増えている寡分割照射に関しても、3.6Gy 15回の外部照射ですとBEDは151Gyであり、2.5Gy 28回でもBEDは157.5Gyに過ぎません。

結局のところ外部照射という治療モダリティは、例え最新のハイテク機器をもちいても、照射される放射線の線量(BED)が高くなっているわけではありませんので、中間リスク、高リスク前立腺癌細胞を完全に死滅させるにためには、十分に高いとはいえないと言わざるを得ません。また外部照射治療では、放射線が体の外から内部へと透過して入ってくるということに変わりがないので高精度高品質の小線源治療で可能となる濃淡をつけて高線量を照射することができないという限界があります。

このあたりの諸問題については、小生が過去におこなった講演でも指摘していますのでご視聴ください(33分35秒~)

●治療法の選択にあたり、知っておきたいこと ~再発のない治療を目指して~
https://www.youtube.com/watch?v=vrVvR7mg0XU

さらに、こういったハイテク機器による外部照射治療で公表されているアウトカムは、世界中で主流となっている2-3年間という長期のホルモン療法の併用により、公表される論文における一般的な経過観察期間(5-10年)では持続するホルモン療法の効果により見かけ上、再発をしていないようにみえている可能性が内在することも治療選択の際に念頭においておくべきだと考えます (この問題は高リスク癌の治療の項でも指摘しています)。

さて、小生は2024年4月1日より大阪前立腺クリニック(Prostate Institute of Osaka)として前立腺癌、特に小線源治療に特化した専門クリニックで、大阪の中心部からアクセスのよい場所で全国からの前立腺癌患者さんを受け入れれる体制をスタートさせました。その中で、昨年末に国際雑誌の編集部から前立腺癌治療の卓越したExpertとして選ばれ、論文の寄稿依頼をいただきました。そして、その内容がこのたび国際雑誌にWhat is the key factor determining effectiveness of radiotherapy for high-risk prostate cancer: a hidden message from RTOG 0521 – Okamoto- Translational Andrology and Urology (amegroups.org) という内容で公表されました。この論文の中で小生は”高リスク前立腺癌における放射線治療の有効性を決定する因子はホルモン療法の長さや、別の薬剤を追加するかではなく投与する放射線の線量、つまり上記に述べたBEDによって決まることを臨床医は理解すべきである”と結論づけています。本論文は外部のPeer reviewも受けており、タイムリーで本質的なコメントであるとジャーナル編集部からも高い評価をいただきました。本論文は大阪前立腺クリニック(Prostate Institute of Osaka)からの初めての論文になりますが、Instituteという英語名を掲げたのは、単に前立腺癌を診断し治療するだけでなく研究所として前立腺癌に関する正しい知見をこのような形でグローバルに発信する場所にしたいという願いも込めています。