■ 私がおこなってきた前立腺癌小線源療法の特徴について
どのような前立腺癌が本治療法の対象となりますか?また岡本医師がこれまでおこなってきた治療方法の特徴と成績を教えてください。
前立腺癌は一般に顕微鏡で見た癌の悪性度 (グリソンスコアという悪性度の指標が一般に用いられます)と診断時のPSA値によって、低リスク、中間リスク、高リスクにわけられます。このうち私が治療の対象としているのは基本的に中間リスクと高リスクの前立腺がんです。なぜならグリソンスコアが3+3である低リスク癌は治療せずとも基本的に転移したり死に至る可能性はほとんどないと考えられているからです。下記に述べるように低リスク前立腺がんに対しては基本 監視療法を採択し、経過中 再検査により中間リスク以上にリスクが上がるようなら治療を考慮することとしています。高精度の小線源治療といえども、不必要な治療を患者さんに行うことは避けたいという患者ファーストの考えに基づく方針です。
従って私が行う小線源治療は基本的には転移のない中間リスクと高リスク前立腺癌を治療の対象としています。後に述べるように骨盤内に現局したリンパ節転移のケースでは小線源治療に全骨盤に対する外部照射を併用することにより高い確率で完治が得られることを世界で初めて公表してきました( Journal of contemporary brachytherapy 2017, Journal of contemporary brachytherapy 2021)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28344597/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7073334/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34025741/
これら多数の治療実績から限定的な骨盤内のリンパ節転移症例は十分治癒可能と考えています。これまでPSAが100を超える方はもちろんのことPSAは最高値350の方も治療前に遠隔転移がなければ非常に高い確率で完治されています。
高リスク前立腺癌に対して
従来は悪性度の高い前立腺癌(高リスク群の患者さん)には小線源療法は適さないと考えられていました。しかしながら近年、難治性とされる高リスク前立腺癌に対してホルモン治療を短期におこないながら小線源治療と外部照射併用による超高線量照射(高リスク癌に対するこの治療をトリモダリティと呼んでいます)を行うことにより、非常に優れたデータが海外より出ています。この点から本院でも高リスク症例には積極的にシード治療と外部照射を併用したトリモダリティを行っております。
また私のメソッドではPSAが100ng/mlを超えるケースや精嚢に浸潤のある症例でも精嚢にシードを配置するなど最新の技術で対応できますので、従来の治療では非常に再発率の高いケースにもとても良い結果がでています。またT4N1という膀胱浸潤にリンパ節転移を伴った症例でも完治例の報告を国際雑誌に発表しています:( Journal of contemporary brachytherapy 2017, Journal of contemporary brachytherapy 2021)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28344597/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8117715/
さらに前立腺癌の中には導管癌と呼ばれる非常に再発率および死亡率の高い、比較的まれな前立腺癌があります。いわゆる難治性前立腺癌と呼ばれるものです。私は局所進行をきたした超高リスク導管癌について先に述べた精嚢へのシード留置を行うことにより11年半、8年という長期観察を経て このような難治性の癌も完全に根治できることを最近国際雑誌に公表しています:(Journal of contemporary brachytherapy 2022) Very high-risk locally advanced prostate ductal adenocarcinoma cured using low-dose-rate brachytherapy, with seminal vesicle implantation in combination with external beam radiotherapy at a biologically effective dose ≥ 220 Gy: two case reports with a long-term follow-up (termedia.pl)
中間リスク前立腺癌に対して
中間リスクに対して私が行ってきた小線源単独療法にも大きな特徴があります。それは他の施設に比べて非常に線量が高く、そのため単独療法をおこなった症例においてもきわめて再発率が低いことがあげられます(中間リスクに対するホルモン療法なしでの小線源単独治療による7年被非再発率99%)。具体的には中リスク前立腺癌の項目で詳しく述べていますが、一般的な施設より30%ほど高い総線量で治療しています(Journal of contemporary brachytherapy 2020)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7073334/
このように現在は、中間リスクの場合、大きな前立腺であっても前立腺サイズを縮小させるためのホルモン療法は極力、行わなわず高線量の小線源単独治療で治療をおこなっています。これは高度な技術に裏付けられた多数症例の経験により、例え大きな前立腺でも正確に線源挿入をおこなう技術が私の開発したメソッド(Ten-step 法)では確立されているからです。年齢が若い方の場合、治療後10年、15年後も再発の不安なく安心して生活ができるように、また性機能も安定して温存できるような治療をおこなうことが使命であると考えています。