解説)前立腺癌の治癒判定について

前立腺癌に対して根治治療(全摘手術または放射線治療)を行ったあとの再発の判定基準として全摘手術の場合はPSA>0.2ng/ml 放射線治療の場合はPSA>2.0ng/mlをもってPSA再発と診断することになっています。ここでは前立腺癌治療後  “治癒した” と判定される基準について考えてみたいと思います。手術の場合は、前立腺癌とともに前立腺組織(前立腺細胞)が完全に切除除去できていることが治癒の条件ですのでPSAが測定感度以下であることになります。実臨床の現場でもこの基準は使われており合理的な判定基準だと思います。一方、放射線治療ではどうかというと、治療の後  “治癒した” と判定される判定基準は存在しません。従ってPSA再発が起こっていないという状態を代理判定基準として運用し、PSA再発が起こっていない確率(PSA非再発率)を治療成績の判断材料に用いているのが現状です。しかしながら放射線治療後の再発基準である2.0ng/mlというPSA値には何ら医学的・生物学的・病理学的根拠はありません。例えば、放射線治療後5年以上の年数を経て徐々にPSAの上昇をきたした場合を考えてみます。この状況でPSA=1.8ng/mlなら非再発と判定されるわけですが、臨床的には再発と判断すべきです。つまり”非再発と判定される状態”と “治癒したと判定される状態”はまったく別物であり、非再発だから完治とは言えないのです。岡本メソッドを用いた高線量での小線源治療、つまり中間リスクではBED=200Gy、 高リスクや超高リスクではBED=220Gy (α/β=2)を局所再発させないための標準線量として前立腺癌を治療した場合、8年から10年といった十分に長い観察期間を経ると隠れた転移(潜在的骨転移など)がなければ、ほとんどの症例(治療前のPSAが100ng/mlを超えるような症例も含めて)で摘出手術がうまくいった場合と同様PSA値は測定感度以下まで低下します。従って私は小線源治療後の治癒判定についてはPSA値が測定感度以下まで低下することを確認することによっておこなっています。この判定基準はPSAを出す細胞(つまり前立腺由来の細胞)が体内から消失したことを意味するのですから、極めて合理的な判定基準といえます。一方、照射線量が80Gy前後の外部照射治療では例えハイテク外部照射装置をもちいた治療でもBED (α/β=2) が150~160Gy程度に留まるため、どれほど長期間観察したとしてもPSA値が測定感度以下まで低下することはまずありません。つまりBED (α/β=2) が150~160Gy程度の放射線治療ではいくら年数が経過しても前立腺の細胞が完全に死滅する状態にまでは至らないのであり、その理由は照射線量 (BED)が低いからなのです。一方、岡本メソッドによる小線源治療の場合、例えば最近の治療例を挙げれば治療前PSA=494ng/ml, T3bN1, グリソンスコア4+5という超難治症例に対して全骨盤への外部照射を併用したトリモダリティ治療を行った結果外部照射終了後3年を経過した時点でのPSAは0.1ng/ml以下になっています (テストステロンは正常値)。このような他施設では根治対象にならないような難治性前立腺癌であっても、長い経過をみればPSAは非常に高い確率で測定感度以下になることが予想されます。前立腺癌の治癒判定については治療後の経過年数ではなく、このような合理的判断基準を採用すべきでり、放射線治療後の真の治癒について科学的に考えていく必要があります。