前立腺癌小線源治療とは、どのような治療法でしょうか?
非常に弱い放射線を出す小さな線源(長さ約4.5mm、直径約0.8mm)を前立腺内に挿入し、前立腺内の癌病巣へ放射線を照射します。線源は外殻がチタン製カプセルになっており、この中に放射性ヨウ素125(I-125)が密封されています。放射線量は徐々に弱まり、1年後にはほとんどゼロになります。小線源治療は高い技術と経験に基づいて適切に施行されるならば比較的侵襲が少なく、安全かつ非常に有効な治療法であることが、証明されています。我が国でも小線源治療が導入されてから既に15年近くが経過しており、その安全性と有効性が確認されています。しかしながら放射線治療としての副作用が全くないわけではありません。前立腺内に挿入された線源から体の外に出る放射線は、非常に弱いもので、周囲の方に与える放射線量は人が自然に受けている放射線量より低いことがわかっております。したがって、治療後も普段どおり人と接することはできます。
放射性ヨウ素125線源の大きさと形状
本治療法の特徴を教えてください。
A. 性機能が維持されやすく、尿失禁がおこりにくい
前立腺癌の治療の課題として、いかに性機能(勃起能)を維持し、尿の禁制を保ってQOL(生活の質)を低下させないようにするかという点があります。ホルモン治療の継続では男性ホルモンを低下させるため、性機能はほとんどの場合で失われます。また前立腺全摘除術では神経温存を試みても、機能が保たれる率は4割程度です。小線源療法では前立腺癌治療の中でもっとも性機能が維持されやすい治療法とされ、5年後に性機能が維持されている率は7~8割と報告されています。また前立腺全摘術で問題となる尿失禁(尿漏れ)は、小線源治療ではかなりまれにしかおこりません。
B. 体への負担が少なく、入院・治療期間は短い
後に示すような手術操作や麻酔が必要であり、体にまったく負担がないわけではありませんが、前立腺全摘除術に比較するとかなり軽度のものです。入院は3日から4日程度必要となりますが、これは前立腺全摘除術よりはかなり短いものです。7-8週の連日治療が必要な外照療法に比べ入院が必要とはいえ、短い期間ですみます。
C. 小線源治療は高い技術と経験をもっておこなえば、副作用なく高い線量を正確に前立腺に照射できるため高い根治性(高い非再発率と完治率)が得られる。
前立腺癌の場合、前立腺内の癌病巣の存在部位が画像上明確になるわけではありません。そのため前立腺癌に対し根治的放射線治療を行う場合、前立腺全域に十分な線量の照射が必要となります。前立腺は腸管の動きや膀胱内の尿量によって位置が刻々と変化するために、外部照射のみで照射を行う場合どうしても微妙な位置のずれが生じてしまいます。そのため、前立腺周囲の組織への照射がどうしても避けられず、高い線量を照射しようとすると放射線に特に弱い直腸や、膀胱の粘膜、皮膚などで放射線障害がおこることがあります。こういった理由から最新の外部照射装置である強度変調放射線治療 (IMRT)をもちいた外部照射でも、せいぜい80Gy前後の線量しか当てることができません。このあたりの線量の問題については付記)として放射線治療とBEDというセクションに説明を加えましたので 詳しく知りたいと思われる方はご一読くだされば幸いです。解説j)放射線治療と生物学的等価線量(BED)について – 前立腺癌密封小線源治療 (keisei-okamoto.net)
これに対し、小線源療法は適切に行えば、線源を正確に前立腺の内側に留置されるため、体の動きの影響を受けません。また、小線源療法は経験と技術を駆使することにより、外部照射のみの治療にくらべて前立腺内部にはるかに高い線量 (外部照射で100Gy相当、小線源と外部照射を併用すれば外部照射で115Gy相当)を当てられる一方で、周囲臓器への照射を少なく抑えることが可能となります。つまり、小線源療法では高いエネルギーを前立腺に照射するという利点を維持しながら、直腸、膀胱での放射線障害を低く抑えることができるわけです。
限局がんと診断して前立腺全摘術(開腹、腹腔鏡、ロボット)をおこなった場合、摘出標本で癌の被膜外への浸潤が明らかになることや、癌に切り込んでしまい切除断端が陽性と判断され結局癌が体内に残ってしまうということがしばしばみられます。つまり被膜外浸潤があるかどうかを正確に治療前に予測することは困難であり、このことから私はすべての前立腺癌は被膜外に浸潤しているものとして治療すべきであると考えています。つまり再発を極力おこさない前立腺癌治療とは被膜の外側まで確実に治療できる方法でなければならないのです。その意味でロボット手術を含めた前立腺全摘出手術の根治性には、不確実性と限界があると言わざるを得ません。
一方 小線源療法では高い経験と技術があれば前立腺被膜の内側ギリギリに線源を留置することが可能となり、被膜の外側の空間にも十分放射線を照射できるため、癌が浸潤している場合でも完治可能させることができるわけです (https://aapm.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/acm2.13224))。
つまり私の考案した上記の小線源治療メソッドをもちいることにより、手術で摘出するラインのさらに数ミリ外側までの治療が正確に実現できるのです。経験を積んだ術者による高精度の小線源療法が他の治療にくらべて副作用が軽微で、なおかつ再発率をきわめて低く抑えられるのは以上の理由からです。